・・・帰って家内に相談しましてね、貯金ありったけ子供の分までおろしたり物を売ったりして、やっと八千両こしらえましてな、一人じゃ持てないちゅうんで、家族総出、もっとも年寄りと小さいのは留守番にして総勢五人弁当持ちで朝暗い内から起きて京都の堀川まで行・・・ 織田作之助 「世相」
・・・その頃、蝶子はまだ二つで、お辰が背負うて、つまり親娘三人総出で、一晩に百個売れたと種吉は昔話し、喜んで手伝うことを言った。関東煮屋のとき手伝おうと言って柳吉に撥ねつけられたことなど、根に持たなかった。どころか店びらきの日、筋向いにも果物屋が・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・近親の婦人が総出で杯盤の世話をし、酌をする。その上、町から芸者を迎えて興を添えさせるのが例なので、この時も二人来ていた。これも祝いのあるうちは泊まっているので、池の向こうの中二階はこの芸者の化粧部屋にも休憩所にもまた寝室にもなっていた。・・・ 寺田寅彦 「竜舌蘭」
・・・ヘッヘッ、消防組、青年団、警官隊総出には、兎共は迷惑をしたこったろうな。犯人は未だ縛につかない、か。若し捕ってりゃ偽物だよ。偽物でも何でも捕えようと思って慌ててるこったろう。可哀相に、何も知らねえ奴が、棍棒を飲み込みでもしたように、叩き出さ・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・かかわらず彼等のもっている明るさや、ものを考える考えかたの新しい綜合的能力、たとえば芸術と社会との関係なんかについてもはっきりそれがわかるが――それにユーモア、テンポなどは、小劇場の「功績ある芸術家」総出でも表現出来ない空気だ。俳優としての・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・一九二九年の一家総出のヨーロッパ旅行は、父の経済力にとって、又母の体力にとって、超常識な決断であった。父は、母を海外へつれてゆくについて、万一の場合、子供らから離れていては母がさぞ悲しいであろうと、長男夫婦、末娘までを一行に加えた。・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
出典:青空文庫