・・・裾を浮かすと、紅玉に乳が透き、緑玉に股が映る、金剛石に肩が輝く。薄紅い影、青い隈取り、水晶のような可愛い目、珊瑚の玉は唇よ。揃って、すっ、はらりと、すっ、袖をば、裳をば、碧に靡かし、紫に颯と捌く、薄紅を飜す。 笛が聞える、鼓が鳴る。ひゅ・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・ どんな純粋な油絵具も、その緑玉色、金色は真似られない、実に燃ゆる自然だ。うっとり見ていると肉体がいつの間にか消え失せ、自分まで燃え耀きの一閃きとなったように感じる。甘美な忘我が生じる。 やがて我に還ると、私は、執拗にとう見、こう見、素・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・花も実もつけない若木であったが柔かい緑玉色の円みを帯びた葉はゆたかに繁っていた。夏の嵐の或る昼間、ひょっと外へ出てその柔かい緑玉色の杏の叢葉が颯と煽られて翻ったとき、私の体を貫いて走った戦慄は何であったろう。驟雨の雨つぶが皮膚を打って流れる・・・ 宮本百合子 「青春」
出典:青空文庫