・・・ただあの文章はいくらか書き様に善くない処があって徒らに人を罵詈したように聞こえたのは甚だ面白くなかった。しかし仲間同志の悪口をいうたという事については、予は何処までも責任を帯びておる。元来悪口をつく事は善くない事であるが、去りとて陰でばかり・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・自分に不当な苦痛や罵詈を与えた者達は、最後まで正しかった者の死屍に対して、どんな悔恨に撃たれながら、頭を垂れるだろう、白い衣を着せられ、綺麗な花で飾った柩に納められた自分が、最後の愛情によって丁寧に葬られる様子が、まざまざと目前に浮み上って・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 訳が分らないで怒鳴りつけられたり擲たれたりして、恐ろしそうに竦んでいる子供達の肩を撫でてやりながら、禰宜様宮田は、黙然としてその罵詈讒謗を浴びていた。 それから毎日毎日こういう厭なことばかりが続いた。 お石は、何かにつけて金を・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・公開書になっているのも、罵詈がしてあれば、棄て置いても好い。あるいは棄て置くのが最紳士らしいかも知れない。また先方にも過誤がある場合には、それを捉えて罵詈の返報をすることも出来る。必ずしも自ら屈して自家の過誤だけを発表しなくても好い。然るに・・・ 森鴎外 「不苦心談」
出典:青空文庫