・・・わたくしが浮世絵を見て始て芸術的感動に打たれたのは亜米利加諸市の美術館を見巡っていた時である。さればわたくしの江戸趣味は米国好事家の後塵を追うもので、自分の発見ではない。明治四十一年に帰朝した当時浮世絵を鑑賞する人はなお稀であった。小島烏水・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・ 昨日あたりから上野の美術館で婦人画家ばかりの展覧会が催おされている。芸術の世界で、婦人ばかりの絵画、あるいは婦人ばかりの文学というものはないものだと思う。それだのに婦人画家だけ集まった展覧会が婦人画家たちからもたれているということは、・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・明治維新の混沌期にもしフェノロサがいなかったら、当時の日本政府は価値のある過去の美術作品を外国美術館でしか見ることの出来ないものにしてしまっただろう。よそから教えられた日本美術の価値におどろいて、「国宝」をこしらえたのはいいが、「国宝」とい・・・ 宮本百合子 「国宝」
・・・スーザン自身は、しかし、芸術というものの永い行く手を感じている本能から目前の成功にたいしては沈着で、ジョーゼフ・ハートが彼女の作品の二つをメトロポリタン美術館に入れたいと申出たのも、作品の本質が一つ一つきりはなせないものだということと、まだ・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・織物に関する図書館は足利とか京都とかに置くという風に。美術館、博物館が付属の公開図書館をもつことも極めて有益だと思う。 坪内逍遙という人がいたおかげで早稲田に演劇に関するものがややまとまったというような偶然にたよっていては、まことに心細・・・ 宮本百合子 「実際に役立つ国民の書棚として図書館の改良」
・・・……きのう、私ども、あの人たちと美術館見学に行きましたよ。 ――大抵、党員なんですか? ――いいえ、いいえ! 薄い繭紬みたいな布で頭をつつんだ血色のいい婦人党員は、つよく否定した。 ――みんな党外の婦人です、党は、党外の人々・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
あいそめ橋で電車をおりて、左手の坂をのぼり桜木町から美術学校の間にある通りへ出た。美術館の横手をのぼって、博物館前を上野の見晴しの方へ通じるこの大通りは、東京の風景がこんなに変った今もやはりもととあまり違わない閑静さをたも・・・ 宮本百合子 「図書館」
・・・殆どすべての学者、芸術家がマドリッド政府の側に在り、有名なセロの名手、私たちに馴染ふかいパブロ・カザルスが全財産を寄附したり、画家ピカソがスペイン美術をファシストの砲火から守るためにマドリッドのプラド美術館館長に任命されたりしているというこ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ルウヴル美術館へ絵を研究にゆくにさえ、「いつも人に附添われて、馬車を待ち、家族その他を待たねばならない。」「なぜ婦人画家が少ないかという理由の一つもこれである。おお、残酷な習俗よ!」マリアは決然として書いている。「私は自分を束縛するあらゆる・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・あたかも大学と劇場と美術学校と美術館と音楽学校と音楽堂と図書館と修道院とを打って一丸としたような、あらゆる種類の精神的滋養を蔵した所であった。そこで彼らは象徴詩にして哲理の書なる仏典の講義を聞いた。その神話的な、象徴化の多い表現に親しむとと・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫