・・・孔子も、五十にして天命を知り、六十にして耳したがい、七十にして心の欲するところにしたがい矩をこえず、といった。老いるにしたがって、ますます識高く、徳がすすんだのである。 このように非凡の健康と精力とを有して、その寿命を人格の琢磨と事業の・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・つまり四十歳の人間が老いるということは何だ。何事であろう。自分はもう生きる力をどこかへなくしてしまったのだろうか。もう一度生きるためにもこれを書かなければならない、と書いた第一回のこころもちが第三回目になって思い出されたわけです。 芸術・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ 老いるに早い日本の文学者たちが、六十歳にも近づけば、谷崎潤一郎の「細雪」のようにきょうの一般の現実には失われた世界の常識にぬくもって、美文に支えられているとき、野上彌生子が、「迷路」にとりくんでいることは注目される。「青鞜」の時代、ソ・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・若い世代に対する糺弾者であり、われわれ自身の老いることを欲しない良心の蹂躙者である権力に向って、わたしは心から次の質問をします。学問の自由、良心の自由、理性の自由をまもろうという動機に立つ学生の運動を、ノン・ポリティカルであるべしと宣伝する・・・ 宮本百合子 「若き僚友に」
・・・ 学者というものも、あの若い時に廃人同様になって、おとなしく世を送ったハルトマンや、大学教授の職に老いるヴントは別として、ショオペンハウエルは母親と義絶して、政府の信任している大学教授に毒口を利いた偏屈ものである。孝子でもなければ順民で・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
出典:青空文庫