・・・ああいう歌でもちゃんとした声楽家の歌ったのならきっとおもしろいだろうと思われるが、普通のレコードのように妙な癖のあるませた子供の唱歌は私にはどうも聞き苦しい。そうかと言って邦楽の大部分や俗曲の類は子供らにあまり親しませたくなし、落語などとい・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・圧制されてやむをえずに出す声であるところが本来の陰欝、天然の沈痛よりも一層厭である、聞き苦しい。余は夜着の中に耳の根まで隠した。夜着の中でも聞える。しかも耳を出しているより一層聞き苦しい。また顔を出す。 しばらくすると遠吠がはたとやむ。・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・疎忽なものが花袋君の文を読むと、小生がズーデルマンの真似でもしているようで聞苦しい。『三四郎』は拙作かも知れないが、模擬踏襲の作ではない。 花袋君は六年前にカッツェンステッヒを翻訳せられて、翻訳の当時は非常に感服せられたが、今日から見る・・・ 夏目漱石 「田山花袋君に答う」
・・・が繰返して云う通り、演説はできず講義としては纏まらず、定めて聞苦しい事もあるだろうと思います。その辺はあらかじめ御容赦を願います。 まずこれからそろそろやり始めます。やり始めますよと断ると何だかえらそうに聞えるが、その実は何でもない。こ・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
出典:青空文庫