・・・脩心学とはこの理に基き、是非曲直を分ち、礼義廉節を重んじ、これを外にすれば政府と人民との関係、これを内にすれば親子夫婦の道、一々その分限を定め、その職分を立て、天理にしたがいて人間に交わるの道を明らかにする学問にて、ひっきょう霊心の議論なり・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・この門番は旧来足軽の職分たりしを、要路の者の考に、足軽は煩務にして徒士は無事なるゆえ、これを代用すべしといい、この考と、また一方には上士と下士との分界をなお明にして下士の首を押えんとの考を交え、その実はこれがため費用を省くにもあらず、武備を・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・ 父母の職分は、子を生んでこれに衣食を与うるのみにては、未だその半ばをも尽したるものにあらず。これを生み、これを養い、これを教えて一人前の男女となし、二代目の世において世間有用の人物たるべき用意をなし、老少交代してこそ、始めて人の父母た・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・一、入社の後、学業上達して教授の員に加わるときは、その職分の高下に応じ、塾中の積金をもって多少に衣食の料を給すべし。生徒より受教の費を出さしむるは、これらのためなり。一、洋書の価は近来まことに下直なり。かつ初学には書類の入用も少なく・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾新議」
・・・左官屋といっても、ドイツではただ壁をぬるばかりが仕事ではなくて、煉瓦を積んで家を建てる仕事や、その家々の装飾の浮彫石膏細工をつくるという風な美術的技量のいることも、やはり左官の職分にこめていたものらしく思われる。 カールのそのようなはっ・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・ 人間らしい生活に対する翹望というものは職場、職分の相違、したがって細かい気持の部分部分では全く同一でないにしろ、働いて、税を出して、あてがいぶちの賃銀を払われて暮している者すべての人々を貫いて流れる一線である。この共感は、社会事情の一・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・信仰と希望とのみに頼って、勇ましく新天地に活動しようと云う、その雄々しい決心のみでさえ、男性を鼓舞するのに充分であったのに、いざ曠野での生活が始ってからは、勇ましい一人の人間として、頼らず怨まず自己の職分を尽して行く。あらゆる困窮の裡にあっ・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・自分の任用したものは、年来それぞれの職分を尽くして来るうちに、人の怨みをも買っていよう。少くも娼嫉の的になっているには違いない。そうしてみれば、強いて彼らにながらえていろというのは、通達した考えではないかも知れない。殉死を許してやったのは慈・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫