・・・私がもし映画統制局々長とか何とかの肩書のある男であったなら、「どうも、なんですねえ、娯楽味を忘れては、なりませんですねえ」などと何の意味も無いような意見を述べても、映画界の幹部たちはひとしく感奮し、ただちに映画界の全従業員を集めて、「実にこ・・・ 太宰治 「芸術ぎらい」
・・・あなたはちっとも有名でありませんし、また、なんの肩書をもお持ちでございません。でも私、おとといギリシャの神話を二十ばかり読んで、たのしい物語をひとつ見つけたのです。おおむかし、まだ世界の地面は固まって居らず、海は流れて居らず、空気は透きとお・・・ 太宰治 「猿面冠者」
・・・という文芸雑誌の、まあ、編輯部次長というような肩書で、それから三年も、まるで半狂乱みたいな戦後のジャアナリズムに、もまれて生きてまいりました。 その終戦直後に、僕が栃木県の生家から東京へ出て来た時には、東京の情景、見るもの聞くもの、すべ・・・ 太宰治 「女類」
・・・ どんなに自分が無内容でも、卑劣でも、偽善的でも、世の中にはそんな仲間ばかり、ごまんといるのだから、何も苦しんで、ぶちこわしの嫌がらせを言う必要はないだろう、出世をすればいいのだ、教授という肩書を得ればいいのだ、などとひそかにお思いにな・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・三田の大学が何らの肩書もないわたくしを雇って教授となしたのは、新文壇のいわゆるアヴァンガルドに立って陣鼓を鳴らさせるためであった。それが出来なくなればわたくしはつまり用のない人になるわけなので、折を見て身を引こうと思っていると、丁度よい事に・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・ニューヨーク・タイムズ東京支局長リンゼー・パロット氏、AP東京支局長ラッセル・ブラインズ氏に対して日本人として鈴木文史朗氏が出席している、肩書はリーダーズ・ダイジェスト日本版編集長とある。座談会はロイヤル長官の談話そのほかいくつかのトピック・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・頁の右肩に英語で肩書や住所などの印刷された、純白で透し模様のあるパリパリした薄い紙はどんなに私を誘惑しただろう。どうか使って見たい。一度、あの紙で手紙を書いて見たい。私は、到頭その紙をそろりと引出し、一大事のような亢奮を覚え乍ら、それで手紙・・・ 宮本百合子 「木蔭の椽」
・・・ 医術では、女のお医者より男のお医者の方がたよりになる気がする場合もあるというのが今日の私たちの正直な実感だけれど、女性の生活に即したことを語る本で、女の著書より肩書きのある男の著書の方が立派そうに思えるという時代は過ぎているであろう。・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
・・・ 喜多氏は、常に独特な物言いの人であるけれども、あのように一般の関心がその見解に集注されている場合、学生を呼んで叱りとばした、というような素朴な態度が表明されると、国民生活の指導部長という責任の大きな肩書に比べて、私たちは極めて頼りない感情・・・ 宮本百合子 「「健やかさ」とは」
・・・クな模倣があらわれていると半ば苦笑の心持もあってその本を手にとってみたら、それはどこかの場当りなブック・メイカアがこしらえているものではなくて、官立大学の学生主事をしている人が、そういう職名もちゃんと肩書きに明記して著している本であった。・・・ 宮本百合子 「生態の流行」
出典:青空文庫