・・・なかば封建の抑圧は、私たちの精神を、背丈のちぢんだ走力のよわった脚のものにしたばかりか、戦争は人間群をきりさいて、世紀の中に、いくつかの世代の層を分裂させているのである。いためつけられた主我の病癖は、当然の結果として、世界史の推移のモメント・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・一人の作家が一寸背丈を高くするために、一寸だけ他の誰かをおしつけてよいものでもないと思う。文学は、大いに研究されるべきものとなってきていると思う。歴史の意志をうつす能力としての才能についても、今日科学者の能力が人類の幸福の助けとなるべきもの・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ われわれの小学校は大体背丈の順で並んだが、ソヴェト同盟の小学校では、一つ机を二人でつかう時には、学期のはじめ教師が自由に一緒に坐る対手をきめさせる。「ミーシャ、また一緒に坐ろうね」「ウン」 だが、教師オリガは、先学期もミー・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・自分の跨がっている坑の直前は背丈位の石垣になっていて、隣の家の横側がその石垣と密接している。物音はその一番奥の所でしている。表から磚の積んだのが見えている辺である。これだけの事を考えて、小川君はとうとう探検に出掛ける決心をしたそうだ。無論便・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・父が江戸から帰った後、兄弟の背丈が伸びてからは、二人とも毎朝書物を懐中して畑打ちに出た。そしてよその人が煙草休みをする間、二人は読書に耽った。 父がはじめて藩の教授にせられたころのことである。十七八の文治と十四五の仲平とが、例の畑打ちに・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫