・・・同時に又経験を徒らにしない能力ばかりにたよるのもやはり食物を考えずに消化力ばかりにたよるものである。 アキレス 希臘の英雄アキレスは踵だけ不死身ではなかったそうである。――即ちアキレスを知る為にはアキレスの踵を知らなけれ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・何故かと申しますと、自分以外の人間の二重人格を現す能力も、時には持っているものがある事は、やはり疑い難い事実でございます。フランツ・フォン・バアデルが Dr. Werner に与えました手紙によりますと、エッカルツハウズンは、死ぬ少し前に、・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・かえってそれらのものなしに行くことが彼らの独自性と本能力とをより完全に発揮することになるかもしれないのだ。 それならたとえばクロポトキン、マルクスたちのおもな功績はどこにあるかといえば、私の信ずるところによれば、クロポトキンが属していた・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・我みずから我が王たらんとし、我がいっさいの能力を我みずから使用せんとする慾望である。人によりて強弱あり、大小はあるが、この慾望の最も熾んな者はすなわち天才である。天才とは畢竟創造力の意にほかならぬ。世界の歴史はようするに、この自主創造の猛烈・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・小樅はある程度まで大樅の成長を促すの能力を持っております。しかしその程度に達すればかえってこれを妨ぐるものである、との奇態なる植物学上の事実が、ダルガス父子によって発見せられたのであります。しかもこの発見はデンマーク国の開発にとりては実に絶・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・そして又此れは独り能力のみに限らず時間的にも相当の際限は免れないのである。斯く思えば感覚の生活もやがて亡びて了うという事実も予想せずには居られない。 人間として生れて来た以上は、肉体に於ても、又精神に於ても各々其の経験を出来得る限り多く・・・ 小川未明 「絶望より生ずる文芸」
・・・よく親の顔色を見、その心持を察するばかりでなく、嘘と真とを聞き分ける能力を持つことに於て、まことに驚かされるものがあります。 また、これに反して、たとえば、お母さん達が、子供を訓戒するための方便として、空涙を出されても、或は、いかに上手・・・ 小川未明 「読んできかせる場合」
・・・が私を一目見て、なんや、あの人ひとの顔もろくろくよう見んとおずおずしたはるやないの、作文つくるのを勉強したはるいうけどちっとも生活能力あれへんやないのと、Kに私のことを随分くさしたからである。「亀さん」はあるデパートのネクタイ部で働いている・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・君にそれだけの能力があるのなら、なぜ僕にそれだけでも返して、出席の方は断わるという気持になれないのかね? これはけっしてたんなる金銭の問題でないのだよ。そういう点について全然無自覚な君を、僕もまさか憎む気にはなれないが、しかし気の毒に思わず・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・自由とは自然法則に従って進行する一系列の現象を自ら始める絶対的に自発的な原因または能力と呼んだ。すなわち、「何々からの自由でなく、規定の一つ多い積極的自由である。規定が一つ減じることは因果律が許さないが、一つ増加することは差支えない。しから・・・ 倉田百三 「学生と教養」
出典:青空文庫