・・・家庭というもののうちにあるそういう煩わしい、幾分悲しく腹立たしい過敏な視線が、若い世代を外へとはじき出していることを、父母たちはどの程度に洞察しているだろうか。 社会の歩みは日本の今日の若い世代を片脚だけ鎖の切れたプロメシゥスのような存・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・――何と可笑しく腹立たしい婆さん! 列車は、婆さんが鼠色のコートにくるまって不機嫌で愚かな何かの怪のように更に遠く辿って行くだろう疎林の小径を右に見て走った。〔一九二七年十二月〕・・・ 宮本百合子 「一隅」
・・・と文学的に詠嘆するに至っては、一箇の腹立たしい漫画である。 なるほど、村についた最初から彼プロレタリア作家は、K部落の窮乏がどんな外見をとって現れているかということは、こまかに書きとめている。外から部落へ入って来たものとして観ている。し・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 腹立たしい様な調子でぶつぶつ祖母は小さい妹の待遇法について不平を云った。「兄弟が多いからでしょう、仕方がありませんよねえ。今度病気がよくなったらこっちでお育てなさるといい。楽しみにもなるしするから。「何! なおるもんで・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・傍できいていて自分は、この父親の態度が歯痒く、腹立たしいようになった。どうして、ズッパリと、何故娘を殺した! と正面からぶつかって行かないのだろう! 何故体あたりに抗議しないのであろう! 遂に不得要領のまま、「では――そういう状態で・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・あなたの体に、あの変に小さいおしるしのような被物がのっかっていたのかと考えると滑稽で腹立たしい。 家の者のいろいろの近況を申しましょう。スエ子はこの十九日頃職業がきまるか駄目になるかの境で、気を張って居ります。どうもあやしいらしい。慶応・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・本来の日本のユーモラスであり腹立たしい人生が見せられたからである。佐藤春夫の「人間天皇の微笑」に対して林房雄は罵らないだろう。これらにはいかなる人生もないから。いわゆるふちの飾りしかないのだから。 文学らしい言葉で云われている林房雄・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ すべて大きくまとまった美と云うものは、多くの場合その色彩の工合で美くしいとも思い又は腹立たしいほど見っともなくも見えるものである。 私達のみなりに対する注意と用意が必要で、又他人の身なりを見る時と同じ気持がいるものだと思う。 ・・・ 宮本百合子 「繊細な美の観賞と云う事について」
・・・父は、あんまりの心配から、腹立たしい様に、「それは、大病の元なんだからね。 青くひょろひょろになって肺病なんかんなったって、 私は見舞になんか行かれないんだ。と云う。 私は、ポロポロ涙をこぼしてきいて居なければな・・・ 宮本百合子 「熱」
・・・けれ共、その細い、やせた体の神経の有りとあらゆるものを、鍋の中に行き来する箸の先に集めて居る小さい者達は、どうして兄の腹立たしい「たくらみ」を見逃すことが有ろう。 子供達の心は、忽ちの内に兄に対する憎しみの心で満ち満ちたものと見え、一番・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫