・・・世界の歴史はようするに、この自主創造の猛烈な個人的慾望の、変化極りなき消長を語るものであるのだ。嘘と思うなら、かりにいっさいの天才英雄を歴史の上から抹殺してみよ。残るところはただ醜き平凡なる、とても吾人の想像にすらたゆべからざる死骸のみでは・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・内にてもっとも新なるものなれば、今日の有様にて生徒の学芸いまだ上達せしにはあらざれども、その温和柔順の天稟をもって朝夕英国の教師に親炙し、その学芸を伝習し、その言行を聞見し、愚痴固陋の旧習を脱して独立自主の気風に浸潤することあらば、数年の後・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・その生るるや、束縛せらるることなく、天より付与せられたる自主・自由の通義は、売るべからずまた買うべからず、人としてその行いを正しゅうし、他の妨をなすに非ざれば」云々と。 春来、国事多端、ついに干戈を動かすにいたり、帷幄の士は内に焦慮し、・・・ 福沢諭吉 「中元祝酒の記」
・・・ 開国以来、我が日本人は西洋諸国の学を勉め、またこれを聞伝えて、ようやく自主独立の何ものたるを知りたれども、未だこれを実際に施すを得ず、またその実施を目撃したることもなかりしに、十五年前、維新の革命あり。この革命は諸藩士族の手に成りしも・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・ 古来、支那・日本人のあまり心付かざることなれども、人間の天性に自主・自由という道あり。ひと口に自由といえば我儘のように聞こゆれども、決して然らず。自由とは、他人の妨をなさずして我が心のままに事を行うの義なり。父子・君臣・夫婦・朋友、た・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・多くの人々が、この問題の本質上、今日ではもう個人的解決の時期を全くすぎていて、これは人民的規模において、男女共通に、共通の方法に参加して、各種の管理委員会をこしらえて、自主的な圧力で改善してゆくことに決心したら、どんなに早く、解決の緒につく・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・働いて生きてゆかなければならないということを理解する人民の女性としてのその心から自主的な協力が生れるし、自主的な協力の理解をもった女性のところへこそ、はじめて浮気でない、いわゆるエティケットでない協力ということをまじめに理解した男性が見出さ・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・の世界観は、現実の問題として、階級対立の社会にあっては支配階級のイデオロギーの侵害を多く受けているものであり、特に日本のように封建性の重いきずなが男女を圧しているところでは、女の性的受動性、男に対する自主的な選択権が隷属的に考えられる習俗を・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ファシズムに反対するという共通の線でむすばれ、民族とその自主的文化のためにともに闘わなければならないという自覚でむすばれている人々がどんなにふえてきているか。このことは過日の非日委員会法に反対して、いわゆる政治的でない二十七名の教授連が声明・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・は、様々な偶然とそれに対して自主的であるはずの自分の生涯という問題にふれている。しかしこの作品の範囲では、少年である主人公が、厄介な偶然を自覚して苦しみを感じはじめるこころまでがかかれた。「我に叛く」は、その後にかかれた長篇「伸子」の短・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)」
出典:青空文庫