・・・ゴーリキイは自分勝手に現実を拵えない作家であると同時に、時には目の先の現実に押されたと思われます。「四十年」が長篇として失敗していることには、加うるに他の原因があったでしょう。「四十年」はゴーリキイのソレント住居時代に執筆されたものでし・・・ 宮本百合子 「長篇作家としてのマクシム・ゴーリキイ」
・・・ そして何かむずかしくなると、「私おかあさんに産んで下さいとお願いして? 自分勝手に私が産れるようになすったのじゃあないの? そうじゃなくって? 私自分で定めたんじゃあありゃしないわ、これ丈は決して忘れないことよ。決して!」 一番末・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・農村では全く自分の家の梅の実さえも自分勝手に梅干に出来ないという状態で暮して来た。食糧の計画的生産、計画的配給は日本では手後れに計画されて、しかも各生産部門における能率低下の原因と反比例する増産の必要に追立てられた。男手を失った農村の婦人達・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・「お前株内や株内や云うけど、苗字が一緒やで株内やと定ってまいが、それに自分勝手に私とこへ連れて来て、たちまちわしとこが迷惑するやないか。」「定ってら、あんな物に迷惑せんとこって、あるもんか。」「そんならなぜわし所へ連れて来た?」・・・ 横光利一 「南北」
・・・私は彼についての解釈があまり自分勝手になっていはしないかを恐れている。ことに私は、今振り返ってみると、日本人らしい accent で彼の思想感情を発音したように感じる。それにはギリシア及びキリスト教文明の教養の乏しいことも原因となっているに・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
出典:青空文庫