・・・四年も外地にいたが、武田さんは少しも報道班員の臭みを身につけていなかった。帰途大阪へ立ち寄って、盛んに冗談口を利いてキャッキャッ笑っている武田さんは、戦争前の武田さんそのままであった。悪童帰省すという感じであった。何か珍妙なデマを飛ばしたく・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・アメリカのジャズはなるほどおもしろいと思う時はあっても、自分にはどうも妙な臭みが感ぜられる。たとえば場末の洋食屋で食わされるキャベツ巻きのようにプンとするものを感じる。これはおそらくアメリカそのもののにおいであろう。しかしこのクルト・ワイル・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・りになった一人むすこからの最初の手紙が届いたときに、友だちの手前わざとふくれっ面をして見せたり、居間へ引っ込んでからあわててその手紙を読もうとしてめがねを落として割ったりする場面の彼一流の細かい芸は、臭みもあるかもしれないがやはりこの人らし・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ 金網で造った長方形の箱形のもしばしば用いたが、あれも一度捕れると臭みでも残るのか、あとがかかりにくい。まれにかかってもたいていは思慮のない小ねずみで、老獪な親ねずみになるとなかなかどの仕掛けにもだまされない。いくらねずみでも時代と共に・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
出典:青空文庫