・・・まして上行菩薩を自覚してる彼が、国を憂い、世を嘆いて、何の私慾もない熱誠のほとばしりに、舌端火を発するとき、とりまく群衆の心に燃えうつらないわけにはいかなかったろう。彼の帰依者はまし、反響は大きくなった。そこで弘長元年五月十二日幕吏は突如と・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・その床几の上に、あぐらをかいて池の面を、ぼんやり眺め、一杯のおしるこ、或は甘酒をすするならば、私の舌端は、おもむろにほどけて、さて、おのれの思念開陳は、自由濶達、ふだん思ってもいない事まで、まことしやかに述べ来り、説き去り、とどまるところを・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・それまでは、私は、あまりの驚愕に、動顛して、震えることさえ忘却し、ひたすらに逆上し、舌端火を吐き、一種の発狂状態に在ったのかも知れない。「たしかに、いたのだ。たしかに。まだ、いるかも知れない。」 家内は、私が、畳のきしむほどに、烈しく震・・・ 太宰治 「春の盗賊」
出典:青空文庫