・・・先ず案内の僧侶に導かれるまま、手摺れた古い漆塗りの廻廊を過ぎ、階段を後にして拝殿の堅い畳の上に坐って、正面の奥遥には、金光燦爛たる神壇、近く前方の右と左には金地に唐獅子の壁画、四方の欄間には百種百様の花鳥と波浪の彫刻を望み、金箔の円柱に支え・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・そしてそういう美の世界では、宗達が嘗つて人間を自在に登場させた可能が封じられて、おのずから波や花鳥、人生としては従のものが図案の主な題材とならざるを得なかったということも示唆にとんでいる。 秋声・藤村 藤村と秋・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・ がっしり天井の低い低い茶っぽい食堂の壁に、夥しく花鳥の額、聯の類が懸っている。棚には、紅釉薬の支那大花瓶が飾ってある。その上、まだ色彩の足りないのを恐れるかのように、食卓の一つ一つに、躑躅、矢車草、金蓮花など、一緒くたに盛り合わせたの・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・紫地に花鳥を縫いつぶしたはこせこと紙入れをかねて居る様なものだった。お妙ちゃんはそれをそうっと抱きあげてしっかりと抱えながら私の目を見つめて居たが急に「お忘れやはるナ」こう云って狂った様にかんざしのかざりをふるわせて走(けて行ってしまった。・・・ 宮本百合子 「ひな勇はん」
出典:青空文庫