・・・私が若しも歌人でしたら、そこで幾首かは詠めたでしょう! そこから又八幡神社を抜けて行くと、古い建物のあと――東塔といって昔七重の高塔で頗る壮麗なものであったという、その塔の跡のあたり芝原になっています。そして其処にはパチコが一面に咲いて・・・ 宮本百合子 「「奈良」に遊びて」
・・・色と慾とに揺がぬ根をはった強い色彩と行動との中にいつしか読者はつり込まれ、「若しも私が貴方のために操を破って居りましたら、クルベルさん、それでも貴方はそのようなことを仰言ったでしょうか?」とユロ夫人はクルベルの顔を見詰めながら云った・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 人間がそう云う心持を持って居るとしたら、その心持が戦争を起し、涙一つこぼさずに殺し合うのも亦当然では無いかと若しも云う人があったら、私は、敢然として否定しなければならない。 そう、人間は確かに祖国の土から、彼等の足を離す事は出来な・・・ 宮本百合子 「無題」
・・・いやそれより若しも生活の感覚化がより真実なる新時代への一致として赦され強要せられなければならないものとしたならば、少くとも文学活動にその使命を感ずる者はより寧ろ生活の感覚化を拒否し否定しなければならないではないか。何ぜなら、もしも然るがよう・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫