・・・椿岳は常から弱輩のくせに通人顔する楢屋が気に入らなかった乎、あるいは羽織の胴裏というのが癪に触った乎して、例の泥絵具で一気呵成に地獄変相の図を描いた。頗る見事な出来だったので楢屋の主人も大に喜んで、早速この画を胴裏として羽織を仕立てて着ると・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・「若輩の分際として、過言にならぬよう物を言われい。忠義薄きに似たりと言わぬばかりの批判は聞く耳持たぬ。損得利害明白なと、其の損得沙汰を心すずしい貴殿までが言わるるよナ。身ぶるいの出るまで癪にさわり申す。そも損得を云おうなら、善悪邪正定ま・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・私は、その亭主を、仮にこの小品の作者御自身と無理矢理きめてしまって、いわば女房コンスタンチェの私は唯一の味方になり、原作者が女房コンスタンチェを、このように無残に冷たく描写している、その復讐として、若輩ちから及ばぬながら、次回より能う限り意・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・余をして汝の卑きながら忠実なる僕たらしめ給へ。若輩は徒事に趨るもの多し。願くば余を其道より引き戻し給へ。余は彼女を恋せず。彼女は依然として余の愛らしき妹なり。愚者よ何の涙ぞ。」「頭痛堪へ難し。今日又余は彼女に遭ひぬ。然り彼女と共に上野を・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ 列座の者の中から、「弱輩の身をもって推参じゃ、控えたらよかろう」と言ったものがある。長十郎は当年十七歳である。「どうぞ」咽につかえたような声で言って、長十郎は三度目に戴いた足をいつまでも額に当てて放さずにいた。「情の剛い奴じゃ・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・横田いよいよ嘲笑いて、お手前とてもその通り道に悖りたる事はせぬと申さるるにあらずや、これが武具などならば、大金に代うとも惜しからじ、香木に不相応なる価をいださんとせらるるは若輩の心得ちがいなりと申候。某申候は、武具と香木との相違は某若輩なが・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・相役いよいよ嘲笑いて、お手前とてもその通り、道に悖りたる事はせぬと申さるるにあらずや、これが武具などならば、大金に代うとも惜しからじ、香木に不相応なる価を出さんとせらるるは、若輩の心得違なりと申候。某申候は、武具と香木との相違は某若輩ながら・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
出典:青空文庫