・・・即ち原稿用紙三枚の久保田万太郎論を草する所以なり。久保田君、幸いに首肯するや否や? もし又首肯せざらん乎、――君の一たび抛下すれば、槓でも棒でも動かざるは既に僕の知る所なり。僕亦何すれぞ首肯を強いんや。僕亦何すれぞ首肯を強いんや。 因に・・・ 芥川竜之介 「久保田万太郎氏」
・・・ この稿を草する間にも、彼はいかがわしい施薬結果を、全国の新聞紙上に広告した。即ち、それによると、過去四ヵ月の間に七十名の貧病者に無料施薬をしたというのである。全国数十万の肺患者のうち、僅か七十名に施薬しただけのことを、鬼の首でもとった・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・本稿を草するにあたって、貧弱な、自分の過去の読書を頼りにして、それを再吟味し、纒めるよりほかなかった。恐らく、いろ/\な疎漏があると思う。それに、年来の宿痾が図書館の古い文献を十分に調べることを妨げた。なお、戦争に関する詩歌についても、与謝・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・ 本編を草するために参考にした書物は次のようなものである。V. I. Pudovkin : On Film Technique, 1930.W. Pudowkin : Filmregie und Filmmanuskript・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・もちろんこれらの人々は一方ではそれぞれの本来の職務に従事しているが、その職務時間の若干をさいて公衆のためにこれらの記事を草するという事は少しも不都合とは思われないのみならず、むしろそういう事は職務に付帯した義務の一部分と考えられない事はない・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・しかしたまたまこの稿を草するに当って、思い出したのは或夜父が晩餐の後、その書斎で雑談しておられた時、今夜は十三夜だと言って、即興の詩一篇を示された事である。その詩は父の遺稿に、蘆花如雪雁声寒 〔蘆花は雪の如く 雁の声は寒し把酒・・・ 永井荷風 「十九の秋」
・・・テニソンの『アイジルス』は優麗都雅の点において古今の雄篇たるのみならず性格の描写においても十九世紀の人間を古代の舞台に躍らせるようなかきぶりであるから、かかる短篇を草するには大に参考すべき長詩であるはいうまでもない。元来なら記憶を新たにする・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・塔中四辺の風致景物を今少し精細に写す方が読者に塔その物を紹介してその地を踏ましむる思いを自然に引き起させる上において必要な条件とは気がついているが、何分かかる文を草する目的で遊覧した訳ではないし、かつ年月が経過しているから判然たる景色が・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・この稿を草する半にして、曙覧翁の令嗣今滋氏特に草廬を敲いて翁の伝記及び随筆等を示さる。因って翁の小伝を掲げて読者の瀏覧に供せんとす。歌と伝と相照し見ば曙覧翁眼前にあらん。竹の里人付記〔『日本』明治三十二年四月二十三日・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・新聞紙のために古人の伝記を草するのも人の請うがままに碑文を作るのも、ここに属する。何故に現在の思量が伝記をしてジェネアロジックの方向を取らしめているかは、未だまったくみずから明かにせざるところで、上にいった自然科学の影響のごときは、少くも動・・・ 森鴎外 「なかじきり」
出典:青空文庫