・・・ 会話の進行は、また内蔵助にとって、面白くない方向へ進むらしい。そこで、彼は、わざと重々しい調子で、卑下の辞を述べながら、巧にその方向を転換しようとした。「手前たちの忠義をお褒め下さるのは難有いが、手前一人の量見では、お恥しい方が先・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・が、それは追々話が進むに従って、自然と御会得が参るでしょう。「何しろ三浦は何によらず、こう云う態度で押し通していましたから、結婚問題に関しても、『僕は愛のない結婚はしたくはない。』と云う調子で、どんな好い縁談が湧いて来ても、惜しげもなく・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・と考えてみると、それはもちろん私の父の勤労や投入資金の利子やが計上された結果として、価格の高まったことになったには違いありませんが、そればかりが唯一の原因と考えるのは大きな間違いであって、外界の事情が進むに従って、こちらでは手を束ねているう・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・第四階級者はかかるものの存在なしにでも進むところに進んで行きつつあるのだ。 今後第四階級者にも資本王国の余慶が均霑されて、労働者がクロポトキン、マルクスその他の深奥な生活原理を理解してくるかもしれない。そしてそこから一つの革命が成就され・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・ 見よ、我々は今どこに我々の進むべき路を見いだしうるか。ここに一人の青年があって教育家たらむとしているとする。彼は教育とは、時代がそのいっさいの所有を提供して次の時代のためにする犠牲だということを知っている。しかも今日においては教育はた・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ 一足進むと、歩くに連れ、身の動くに従うて、颯と揺れ、溌と散って、星一ツ一ツ鳴るかとばかり、白銀黄金、水晶、珊瑚珠、透間もなく鎧うたるが、月に照添うに露違わず、されば冥土の色ならず、真珠の流を渡ると覚えて、立花は目が覚めたようになって、・・・ 泉鏡花 「伊勢之巻」
・・・もはや恐怖も遅疑も無い。進むべきところに進む外、何を顧みる余地も無くなった。家族には近い知人の二階屋に避難すべきを命じ置き、自分は若い者三人を叱して乳牛の避難にかかった。かねてここと見定めて置いた高架鉄道の線路に添うた高地に向って牛を引き出・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・後について来ると思たものが足音を絶つ、並んどったものが見えん様になる、前に進むものが倒れてしまう。自分は自分で、楯とするものがない。」「そこになると、もう、僕等の到底想像出来ないことだ。」「実際、君、そうや。」「わたしは何度も聴・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・しかるに文明の進むと同時に人の欲心はますます増進し、彼らは土地より取るに急にしてこれに酬ゆるに緩でありましたゆえに、地は時を追うてますます瘠せ衰え、ついに四十年前の憐むべき状態に立ちいたったのであります。しかし人間の強欲をもってするも地は永・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・ しかし、かくのごときものは、児童等の知識の進むに従って、満足することができなくなった。この欠陥と不満は、すでに従来のお伽噺や、童話について感じられたことであって、児童の読物を科学的のものに引戻せという声は、その反動的のあらわれと見・・・ 小川未明 「新童話論」
出典:青空文庫