・・・「あの津辺の定公ち親分の寺でね。落合の藪の中でさ、大博打ができたんだよ。よせばえいのん金公も仲間になったのさ。それをだれが教えたか嬶に教えたから、嬶がそれ火のようになってあばれこんだとさ」「うん博打場へかえ」「そうよ、嬶のおこる・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・ 朝落合の火葬場から持ってきたばかしの遺骨の前で、姉夫婦、弟夫婦、私と倅――これだけの人数で、さびしい最後の通夜をした。東京には親戚といって一軒もなし、また私の知人といっても、特に父の病死を通知して悔みを受けていいというほどの関係の人は・・・ 葛西善蔵 「父の葬式」
・・・私は北海道生まれ、落合一雄という男になった。流石に心細かった。所持のお金を大事にした。どうにかなろうという無能な思念で、自分の不安を誤魔化していた。明日に就いての心構えは何も無かった。何も出来なかった。時たま、学校へ出て、講堂の前の芝生に、・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・東の仙人峠から、遠野を通り土沢を過ぎ、北上山地を横截って来る冷たい猿ヶ石川の、北上川への落合から、少し下流の西岸でした。 イギリス海岸には、青白い凝灰質の泥岩が、川に沿ってずいぶん広く露出し、その南のはじに立ちますと、北のはずれに居る人・・・ 宮沢賢治 「イギリス海岸」
・・・ すっかり夜になり、自働車を降りて、更に落合楼に下る急な坂路にかかると、思いがけず正面に輪廓丸い二連の山、龍子の墨絵のようにマッシヴに迫り、こわい程遙か底に宿の小さい灯かげ、川瀬の響あり。十二夜の月を背負った山の真黒で力強い印象。目まい・・・ 宮本百合子 「湯ヶ島の数日」
・・・それでは落合太郎君もさそおうではないかと言って、そのころ真如堂の北にいた落合君のところを十時ごろに訪ねた。そうして三人で町へ出て、伏見に向かった。 谷川君が案内してくれたのは、伏見の橋のそばの宿屋であった。もう夜も遅いし、明朝は三時に起・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
出典:青空文庫