・・・これにはいろいろの理由があるであろうが、要するに時の試練を経ない造営物が今度の試験でみごとに落第したと見ることはできるであろう。 小学校建築には政党政治の宿弊に根を引いた不正な施工がつきまとっているというゴシップもあって、小学生を殺した・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・その時に夏目先生の英語をしくじったというのが自分の親類つづきの男で、それが家が貧しくて人から学資の支給を受けていたので、もしや落第するとそれきりその支給を断たれる恐れがあったのである。 初めて尋ねた先生の家は白川の河畔で、藤崎神社の近く・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・われわれが漢文の教科書として『文章軌範』を読んでいた頃、翰は夙に唐宋諸家の中でも殊に王荊公の文を諳じていたが、性質驕悍にして校則を守らず、漢文の外他の学課は悉く棄てて顧ないので、試業の度ごとに落第をした結果、遂に学校でも持てあまして卒業証書・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
・・・あれを読んで人生問題の根元に触れていないから駄作だと云うのは数学の先生が英語の答案を見て方程式にあてはまらないから落第だと云うようなものである。デフォーは一種の写実家である。ロビンソンクルーソーを読んでテニソンのイノック・アーデンのように詩・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・のみならずその以前には、貴方がたのように、生徒としてこの学校に――何年間おりましたか知らん――落第したと思っちゃいけません。元々私は此所へ這入って来たのじゃない。この学校が予備門といって丁度一ツ橋外にありました。今の高等商業のある界隈一面が・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・さていよいよモーニングが出来上ってみると、あに計らんやせっかく頼みにしていた学習院の方は落第と事がきまったのです。そうしてもう一人の男が英語教師の空位を充たす事になりました。その人は何という名でしたか今は忘れてしまいました。別段悔しくも何と・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・全く三千六百五十三回、則ち閏年も入れて十年という間、日曜も夏休みもなしに落第ばかりしていては、これが泣かないでいられましょうか。けれどもネネムは全くそれとは違います。 元気よく大学校の門を出て、自分の胸の番地を指さして通りかかったくらげ・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・これは男の封建性とか一部の今日の特権者の腐敗という小さい問題ではない、金と女と酒という、もっともひくい所から人間の値うちが証明されてくる――その点からさえも彼等が落第であるということを選挙直前のもっとも適切なときに自分から証明したものです。・・・ 宮本百合子 「泉山問題について」
・・・ ハフは、三度も落第して、父親の卒業した名誉ある学校を退学させられました。 ハリは、その時、「彼は頭はあるんだ。勿論、指導者を見つけてやることも出来る。然し、あれの持たない、そして持つことの出来ないものが、ハフに学校をやめさせるのだ・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・ある独逸語教授の非常識な採点法によって、学年試験に三十五人のうち十七人落第させられる。その内の一人となる。八月、足尾銅山に遊び、処女作「穴」を書く。この作品は川村花菱氏を通じ伊原青々園の『歌舞伎』にのせられた。 一九一一年。名古屋の或る・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫