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・・・すると馬は――馬車を牽いていた葦毛の馬は何とも言われぬ嘶きかたをした。何とも言われぬ?――いや、何とも言われぬではない。俺はその疳走った声の中に確かに馬の笑ったのを感じた。馬のみならず俺の喉もとにも嘶きに似たものがこみ上げるのを感じた。この・・・
芥川竜之介
「馬の脚」
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・・・また殿で敵に向いなさるなら、鹿毛か、葦毛か、月毛か、栗毛か、馬の太く逞しきに騎った大将を打ち取りなされよ。婦人の甲斐なさ、それよ忠義の志ばかりでおじゃるわ』とこの眼から張り切りょうずる涙を押えて……おおおれは今泣いてはいぬぞ、忍藻……おれも・・・
山田美妙
「武蔵野」