・・・漢学流の言に従えば、南が陽なれば北を陰と言い、冬が陰なれば春を陽と言い、天は陽、地は陰、日は陽、月は陰など言うが如く、往古蒙昧の世に無智無学の蛮民等が、其目に触れ心に感ずる所を何の根拠もなく二様に区別して、之に附するに漠然たる陰陽の名を以て・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 結婚生活または家庭生活というものを、私たちはまだまだどこやら穴居人の洞めいたものに感じる蒙昧さがのこっていると思う。そこの内部は何か人目からかくされた場所で、そこにある丁度いい暖かさ、体にあった窪みを、ほかのものには相当堪え難い悪臭と・・・ 宮本百合子 「家庭創造の情熱」
・・・ 日本が民主的自主的政治の能力を示して、世界に、自立的民族として存続する可能性の十分あることを示すか、或は、蒙昧な反動国として、民主的世界によって飽くまで監視されなければならない立場に置かれるか。次回の総選挙は、そういう意味で極めて重大・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・ 今日我々がうけついでいる文化、感情、知性は、社会の歴史に制せられてその本質に様々の矛盾、撞着、蒙昧をもっていることは認めなければならない事実である。科学者が科学を見る態度にもこれをおのずから反映している。特に、今日の科学では未だ現実の・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・彼の論敵たる勢力が「民衆を隷従、蒙昧、無智の状態に引止めて置こうとしている」現代の「非真実」な社会現象との闘いが、今日すべての人間らしき人間の関心事である。それに対して、彼が最も理想とする完全な個人主義の花盛りにまでは、人類として、歴史的に・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・いかなる封建性、きたないブルジョア・エロチシズム横行の中にあっても、その蒙昧さによって一応母の愛はその偽善も、バクロされないのである。 自分は今こそ「妻・母」として Full にものを云い得る。愛する男の美しさについて、その皮膚のすみず・・・ 宮本百合子 「婦人作家は何故道徳家か? そして何故男の美が描けぬか?」
・・・ 文学と科学とが、私たちの感情のなかで分裂している状態は殆ど悲しい蒙昧であるとさえ思う。文学の仕事をしているものの果して何人が、今日自分たちの想像力、ロマンチシズムの根柢を科学と人間との動的の可能性の上においているであろうか。 科学・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
・・・ニューヨークのあの摩天楼の櫛比した上に巨大な破壊力がおちかかる時の光景を想像すれば、どんな蒙昧な市民も、それが、ノア洪水より、惨な潰滅の姿であることを理解するだろう。もし、アメリカの市民感情に戦争挑発にのせられる何かの可能があるとすれば、そ・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・けれども、彼が愛する日本を暗くしている蒙昧に対して明知を、人間性の無視と没却とに対して、その自立と天然の開花を追求した方向においては、疑いもなく明治、大正年代の進歩人の意欲を正当に代表していたのである。「厨房日記」における梶の見解、その・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・ヨーロッパが、まだ蒙昧な、半ば野蛮時代の生活をしていた十一、二世紀に、日本は既に藤原時代の社会生活と文化とを持っていた。従って、当時の世界で、日本は確かに支那に次ぐ文化の先進性を持っていたのであった。ところが、肝腎の近代の黎明であるルネッサ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫