・・・ なお拙著「蒸発皿」に収められた俳諧や連句に関する所説や、「螢光板」の中の天災に関する諸編をも参照さるれば大幸である。 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ 雷電の熱効果、器械的効果を述べる中に、酒壺に落雷すると酒は蒸発してしまって壺は無事だというような例があげてある。これなどは普通の気象学書には見えないことであるが、事実はどうだか私にはわからない。 雷電の火の種子が一部は太陽から借り・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・雨は天より降るといい、あるいは雲凝りて雨となるというのみにして、蒸発の理と数とにいたりては、かつてその証拠を求むるを知らざりしなり。朝夕水を用いてその剛軟を論じながら、その水は何物の集まりて形をなしたるものか、その水中に何物を混じ何物を除け・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
・・・そうすると、水銀がみんな蒸発して、喰べられるようになるよ。」「こいつは鳥じゃない。ただのお菓子でしょう。」やっぱりおなじことを考えていたとみえて、カムパネルラが、思い切ったというように、尋ねました。鳥捕りは、何か大へんあわてた風で、・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ 厚くしかれた河原の青葦は、むんむんと水気を蒸発させ、葦が乾いて段々枯れてゆくきつい香りを放散させ、わたしは目がくらみそうだった。それでも八月の二十日すぎて東京へかえるとき「古き小画」は出来あがった。「古き小画」は宮原晃一郎氏を通じ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・は常人の日暮しの中からは夙に蒸発してしまっていて、僅にその蒸溜のような性質のものが、茶会も或る意味でのコンツェルンであるブルジョアの間に、骨董屋を挾んで残存している。外国人に見せるものの中に茶の湯という項は必ずある。果してそれを今日の日本の・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・ はや下ななつさがりだろう、日は函根の山の端に近寄ッて儀式とおり茜色の光線を吐き始めると末野はすこしずつ薄樺の隈を加えて、遠山も、毒でも飲んだかだんだんと紫になり、原の果てには夕暮の蒸発気がしきりに逃水をこしらえている。ころは秋。そここ・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫