・・・ 野口という大学教授は、青黒い松花を頬張ったなり、蔑むような笑い方をした。が、藤井は無頓着に、時々和田へ目をやっては、得々と話を続けて行った。「和田の乗ったのは白い木馬、僕の乗ったのは赤い木馬なんだが、楽隊と一しょにまわり出された時・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・ 叔母はやっと膝の上の手紙や老眼鏡を片づけながら、蔑むらしい笑いかたをした。するとお絹も妙な眼をしたが、これはすぐに気を変えて、「何? 叔母さん、それは。」と云った。「今神山さんに墨色を見て来て貰ったんだよ。――洋ちゃん、ちょい・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・が、もし強いて考えれば、己はあの女を蔑めば蔑むほど、憎く思えば思うほど、益々何かあの女に凌辱を加えたくてたまらなくなった。それには渡左衛門尉を、――袈裟がその愛を衒っていた夫を殺そうと云うくらい、そうしてそれをあの女に否応なく承諾させるくら・・・ 芥川竜之介 「袈裟と盛遠」
出典:青空文庫