・・・ 飴は、今でも埋火に鍋を掛けて暖めながら、飴ん棒と云う麻殻の軸に巻いて売る、賑かな祭礼でも、寂びたもので、お市、豆捻、薄荷糖なぞは、お婆さんが白髪に手抜を巻いて商う。何でも買いなの小父さんは、紺の筒袖を突張らかして懐手の黙然たるのみ。景・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・白い歯がちらちらした。薄荷のようにひりひりする唇が微笑している。 彼は、嫉妬と憤怒が胸に爆発した。大隊を指揮する、取っておきのどら声で怒なりつけようとした。その声は、のどの最上部にまで、ぐうぐう押し上げて来た。 が、彼は、必死の努力・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・何等の遠い慮もなく、何等の準備もなく、ただただ身の行末を思い煩うような有様をして、今にも地に沈むかと疑われるばかりの不規則な力の無い歩みを運びながら、洋服で腕組みしたり、頭を垂れたり、あるいは薄荷パイプを啣えたりして、熱い砂を踏んで行く人の・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・苹果や梨やまるめろや胡瓜はだめだ、すぐ枯れる、稲や薄荷やだいこんなどはなかなか強い、牧草なども強いねえ。」 又三郎はちょっと話をやめました。耕一もすっかり機嫌を直して云いました。「又三郎、おれぁあんまり怒で悪がた。許せな。」 す・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
出典:青空文庫