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・・・他なし、渠はおのが眼の観察の一度達したるところには、たとい藕糸の孔中といえども一点の懸念をだに遺しおかざるを信ずるによれり。 ゆえに渠は泰然と威厳を存して、他意なく、懸念なく、悠々としてただ前途のみを志すを得るなりけり。 その靴は霜・・・
泉鏡花
「夜行巡査」
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・・・ 昔し阿修羅が帝釈天と戦って敗れたときは、八万四千の眷属を領して藕糸孔中に入って蔵れたとある。維摩が方丈の室に法を聴ける大衆は千か万かその数を忘れた。胡桃の裏に潜んで、われを尽大千世界の王とも思わんとはハムレットの述懐と記憶する。粟粒芥・・・
夏目漱石
「一夜」