・・・二十日に要るのですけれど(日数に於いて掛値おそくだと、私のほうでも都合つくのですが(虚飾のみ。人を愚弄万事御了察のうえ、お願い申しあげます。何事も申しあげる力がございません委細は拝眉の日に。三月十九日。治拝。(借金の手紙として全く拙劣を極む・・・ 太宰治 「誰」
・・・(吾妻鏡 おたずねの鎌倉右大臣さまに就いて、それでは私の見たところ聞いたところ、つとめて虚飾を避けてありのまま、あなたにお知らせ申し上げます。 というのが開巻第一頁だ。どうも、自分の文章を自分で引用するというのは、グロテスクなも・・・ 太宰治 「鉄面皮」
拝啓。暑中の御見舞いを兼ね、いささか老生日頃の愚衷など可申述候。老生すこしく思うところ有之、近来ふたたび茶道の稽古にふけり居り候。ふたたび、とは、唐突にしていかにも虚飾の言の如く思召し、れいの御賢明の苦笑など漏し給わんと察・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・そして真率朴訥という事から出て来る無限の大勢力の前に虚飾や権謀が意気地なく敗亡する事を痛快に感じないではいられない。 以上の比較は無論ただ津田君の画のある小さい部分について当て嵌るものであって、全体について云えば津田君の画は固より津田君・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・此辺より見れば女大学は人に無理を責めて却て人をして偽を行わしめ、虚飾虚礼以て家族団欒の実を破るものと言うも不可なきが如し。我輩の所見を以てすれば、家内の交には一切人為の虚を構えずして天然の真に従わんことを欲するものなり。嫁の身を以て見れば舅・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・内外人民の交際は甚だ繁忙多端にして、外国人が我が日本国の事情を詳らかにせんとするは、容易なることにあらざるが故に、彼らをして我が真面目を知らしめんとするには、事の細大に論なく、仮令え無用に属する外見の虚飾にても、先ずその形を示して我を知るの・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・いたずらに虚飾の流行に誘われて世を誤るべきのみ。もとより農民の婦女子、貧家の女子中、稀に有為の俊才を生じ、偶然にも大に社会を益したることなきにあらざれども、こは千百人中の一にして、はなはだ稀有のことなれば、この稀有の僥倖を目的として他の千百・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・ことにその題目が風月の虚飾を貴ばずして、ただちに自己の胸臆をしくもの、もって識見高邁、凡俗に超越するところあるを見るに足る。しこうして世人は俊頼と文雄を知りて、曙覧の名だにこれを知らざるなり。 曙覧の事蹟及び性行に関しては未だこれを聞く・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・野心、気取り、虚飾、空威張、凡そこれらのものは色気と共に地を払ってしまった。昔自ら悟ったと思うて居たなどは甚だ愚の極であったということがわかった。今まで悟りと思うて居たことが、悟りでなかったということを知っただけがむしろ悟りに近づいた方かも・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・これらの人々の生活は、小さい時分からケーテの身近なものであったと同時に、その虚飾のない生活にあらわれる刻々の生活の姿は、ケーテの創作慾が誘われずにはいない力をもっていた。ケーテは後年、次のようにいっている。「港に働く婦人たちは、社交上の因習・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
出典:青空文庫