・・・役には立たず、それを憧れ、信仰し、永遠の青春として味到してはじめて血肉となるのであるから、例えば「日本的なるもの」の解釈に当って、その問題の発生を社会的な原因の面からだけ見るような一部の批評家、戸坂潤、岡邦雄の如きは反動であるという意見なの・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・に同じ作者によって書かれている自分の家系の物語、愛子物語をあわせ読むと、舟橋氏のヒューマニズムが一般人間性の観念にあやまられ、血肉の情に絡まって今日、どのような洞に頭を向けているかが実に明瞭に分るのである。 このハッピー・エンドのヒュー・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・それも、あなたはそちらから、私はこちらからという工合に国民生活の内部で政治と文学とが両方から歩みよるというような形式的な関係ではなく、国民の一人一人の生活の運転の血肉として、その生活意欲の表現としての政治と文学とが各人の中に相互的統一におか・・・ 宮本百合子 「平坦ならぬ道」
・・・作家にとってその成長のひとまたぎは、どんなにささやかなものであるにしても、つねに血肉をもって生きられたひとまたぎでなければならなかった。しかし、理論家にとっては一篇の作品を細心に吟味することで、プロレタリア文学として次の発展段階へ、しかじか・・・ 宮本百合子 「両輪」
・・・私はただ血肉に食い入る体験をさしているのです。これはやがて人格の教養になります。そうして、その人が「真にあるはずの所へ」その人を連れて行きます。その人の生活のテエマをハッキリと現われさせ、その生活全体を一つの交響楽に仕上げて行きます。すべて・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫