・・・それは全く凄いものだった。衛兵は総がかりで狼と戦わねばならなかった。悪くすると、腋の下や、のどに喰いつかれるのだ。 薄ら曇りの日がつづいた。昼は短く、夜は長かった。太陽は、一度もにこにこした顔を見せなかった。松木は、これで二度目の冬を西・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・ 負傷者は、Aの日が暮れるとBの日を待った。Bの日が暮れるとCの日を待った。それからD、E、F……。 ゼットが来なければ、彼等は完全にいのちを拾ったとは云えないのだ。 衛兵にまもられた橇が黒龍江を横切って静かに対岸の林へ辷って行・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・川の少し下の方には、衛兵所のような門鑑があった。 そこから西へ、約三里の山路をトロッコがS町へ通じている。 住民は、天然の地勢によって山間に閉めこまれているのみならず、トロッコ路へ出るには、必ず、巡査上りの門鑑に声をかけなければなら・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・ 工場内へ通じる狭い柵の横に一人赤衛兵と、二三人の男がかたまっている。そこは一本の廊下だがその辺には工場委員会共産党青年ヤチェイカの札が見えるだけで、どこに新聞発行所があるかわからない。 自分は、柵のところに立ってる男に、「新聞発行・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・でわれわれがよんだように、工場の赤衛兵の発達したものであったろうか? そうでもない。ブジョンヌイという一人の農民出身で、戦術にかけては天才的な騎兵が中心となってこしらえたものだ。自分の厩で飼い馴れた馬にとびのり「白」に向って突撃した農民の集・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・その間を赤衛兵が散歩する。ピオニェールが赤いネクタイをひらひらさせて通る。もちろんいかさま野師もその間を歩いては行くのだが、目につくのは並木のはてまで子供、子供だ。アルバートのゴーゴリ坐像の膝があいているのが不思議ぐらいな賑いである。 ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・上衣の襟フックをはずした赤衛兵が一つの窓に腰かけてまとまりなく手風琴を鳴らしている。ソヴェト・ロシアの兵士は、ソヴェトに選挙された時、二種の委員をかねる権利を与えられている。入営まで職についていれば除隊後新たに就職するまで失業手当を支給され・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ アーク燈に美しく照らされたモスクワ市中の並木道は、日に二時間ぐらいずつ自由時間のある赤衛兵、ピオニェール、その他大衆の散歩で賑やかだ。並木道にも音楽堂があって、労働者音楽団の奏する音楽が遠くまで、夜おそくまで聞える。 ソヴェト同盟・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の夏休み」
・・・若い美術家は、そこで、彫刻において、赤衛兵を、ソヴェトの男女労働者を、世界プロレタリア解放運動のための闘士を大きく記念碑的に表現しようとして、技術がなかなか追いつかぬ。実際的には石や石膏をいじるより、例えば「文化と休みの公園」の広場に飾られ・・・ 宮本百合子 「プロレタリア美術展を観る」
・・・そして、バッキンガム宮殿の鉄柵に沿って今もカーキ色服に白ベルトの衛兵が靴の底をコンクリートに叩きつけつつ自働人形的巡邏を続けているであろう。になった銃の筒口が聖ジェームス公園の緑を青く照りかえして右! 左! 右! 左! オックスフォ・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫