・・・ある内容を表出せんとするにあたって、文語によると口語によるとは詩人の自由である。詩人はただ自己の最も便利とする言葉によって歌うべきである。という議論があった。いちおうもっともな議論である。しかし我々が「淋しい」と感ずる時に、「ああ淋しい」と・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・外の各種の舞踊に表われるような動的エネルギーの表出はなくて、すべてが静的な線と形の律動であるように思われた。 二番目の「地久」というのは、やはり四人で舞うのだが、この舞の舞人の着けている仮面の顔がよほど妙なものである。ちょっと恵比寿に似・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・しかるに幼少のころから、他人の感情を害すまい、他人の誤解を受けまいというふうな用心によって、卒直な感情の表出を統制するように訓練されて来たとなると、右のような態度そのものが、何となく浅はかなような、奥ゆかしさを欠いたものとして感ぜられるよう・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫