・・・間性一般の大問題であろうと思いますが、今宵死ぬかも知れぬという事になったら、物慾も、色慾も綺麗に忘れてしまうのではないかしらとも考えられるのに、どうしてなかなかそのようなものでもないらしく、人間は命の袋小路に落ち込むと、笑い合わずに、むさぼ・・・ 太宰治 「貨幣」
・・・肉体文学というものの袋小路が思いあわされる。こんにち世界で十数億の人民が平和と原子兵器禁止のために発言している。その過半数は婦人であり、第二次大戦の犠牲者たちである。ある人によれば、これらの婦人たちの性のクレイムが彼女たちの熾烈な平和への要・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・ 煩瑣、無気力であった文学の袋小路は、やっと広く活々とした大路へ通じる一つの門を見出したかのようであったが、ここにも亦、複雑な日本の情勢は複雑な文学の諸問題を露出した。由来、舟橋氏等によって提唱されはじめた能動精神、行動主義文学という言・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 人生の袋小路からの脱け路を求めつつ、ゴーリキイは自分が小さい時分、秋、日暮れ近い森で道に迷った時のやりかたを思い出した。そういう時彼は、茂みの中で朽ちた枝の上でも、沼地の滑り易い凸凹の上でも所きらわず真直行くといつかは道に出ることが出・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・等のビラの貼ってある煉瓦塀について曲ると、びっくりして自分は袋小路のつき当りを見た。 真白な素晴らしい建物だ! 芝生と鉄柵にかこまれてある。近よると袋小路ではなく路は建物について左右にわかれている。高い破風に金文字で「クララ・ツェトキン・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
出典:青空文庫