・・・法師のころりと坐った、縁台に、はりもの板を斜めにして、添乳の衣紋も繕わず、姉さんかぶりを軽くして、襷がけの二の腕あたり、日ざしに惜気なけれども、都育ちの白やかに、紅絹の切をぴたぴたと、指を反らした手の捌き、波の音のしらべに連れて、琴の糸を辿・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・で、孫に持って行って遣るが可い、と捌きを付けた。国貞の画が雑と二百枚、辛うじてこの四冊の、しかも古本と代ったのである。 平吉はいきり出した。何んにも言うなで、一円出した。「織坊、母様の記念だ。お祖母さんと一緒に行って、今度はお前が、・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・ 一人がもう、空気草履の、媚かしい褄捌きで駆けて来る。目鼻は玉江。……もう一人は玉野であった。 紫玉は故郷へ帰った気がした。「不思議な処で、と言いたいわね。見ぶつかい。」「ええ、観光団。」「何を悪戯をしているの、お前さん・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・ 今言ったその運転手台へ、鮮麗に出た女は、南部の表つき、薄形の駒下駄に、ちらりとかかった雪の足袋、紅羽二重の褄捌き、柳の腰に靡く、と一段軽く踏んで下りようとした。 コオトは着ないで、手に、紺蛇目傘の細々と艶のあるを軽く持つ。 ち・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・ 美人は冷然として老媼を諭しぬ、「母上の世に在さば何とこれを裁きたまわむ、まずそれを思い見よ、必ずかかる乞食の妻となれとはいいたまわじ。」と謂われて返さむ言も無けれど、老媼は甚だしき迷信者なれば乞食僧の恐喝を真とするにぞ、生命に関わる大・・・ 泉鏡花 「妖僧記」
・・・沼南と私とは親しい知り合いでなかったにしろ、沼南夫妻の属するU氏の教会と私とは何の交渉がなかったにしろ、良心が働いたなら神の名を以てする罪の裁きを受ける日にノメノメ恥を包んで私の前へは出て来られないはずであるのを、サモ天地に恥じない公明正大・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・の木彫に出会って、これが自分で捌き得る人物だろうかと、大に疑懼の念を抱かざるを得なくなり、又今更に艱苦にぶつかったのであった。 主人の憤怒はやや薄らいだらしいが、激情が退くと同時に冷透の批評の湧く余地が生じたか、「そちが身を捨て・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ぬけぬけ白状するということは、それは、かえって読者に甘えている所以だし、私の罪を、少しでも軽くしようと計る卑劣な精神かも知れぬし、私は黙って怺えて、神のきびしい裁きを待たなければならぬ。私が、悪いのだ。持っている悪徳のすべてを、さらけ出した・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・そして大岡越前守が「あの封建時代、みずから捕え、みずから取調べるというもっての外の裁判制度の時代ですら、今日三尺の児童も大岡裁き、大岡裁判といえば存ぜないものがないくらいの名をのこされた」その誠意、見識をもって本件をあつかってほしいと要望し・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・東洋にばかり根を張ったとされる牢のような家族制度、又は、男尊女卑の悪風は、時と云う偉大な裁きてが、順次に枯す根なら枯してくれます。女性の職業的困難がそれ等に関っているばかりであるなら、忍耐さえ知っていれば、自然に解決されると云っても誇張では・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
出典:青空文庫