・・・ただし遅速はおいて、複写して、夫人の御人々御中に返したてまつるべき事は言うまでもなかろう。 今日は方々にお賽銭が多い。道中の心得に、新しく調えた懐中に半紙があった。 目の露したたり、口許も綻びそうな、写真を取って、思わず、四辺を見て・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・ 風俗小説が、その世相複写の一定の限界に達してくれば、それらの作者の生活範囲での種さがしと、センセーショナルな事件をあさる職業心理はさけがたいだろう。一九四九年は、この面でも、これまでの文学の場面にはなかった奇怪なモデル出入りが発生した・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・をよみくらべた人はそこに不可解な一つの重複というか、複写版というか問題があることに気づかずにいられなかっただろう。山口一太郎氏の二篇の実録をよむと、この人が二・二六事件をクライマックスとする陸軍部内の青年将校の諸陰謀事件に、密接な関係をもっ・・・ 宮本百合子 「作家は戦争挑発とたたかう」
出典:青空文庫