・・・○くだものに准ずべきもの 畑に作るものの内で、西瓜と真桑瓜とは他の畑物とは違うて、かえってくだものの方に入れてもよいものであろう。それは甘味があってしかも生で食う所がくだものの資格を具えておる。○くだものと気候 気候によりてくだもの・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・殊にこの紀行を見ると毎日西瓜何銭という記事があるのを見てこの記者の西瓜好きなるに驚いたというよりもむしろ西瓜好きなる余自身は三尺の垂涎を禁ずる事が出来なかった。毎日西瓜の切売を食うような楽みは行脚的旅行の一大利得である。 夏時の旅行は余・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・ おれの裁断には地殻も服する サンムトリさえ西瓜のように割れたのだ。」 さあ三十人の部下の判事と検事はすっかりつり込まれて一緒に立ち上がって、「ブラボオ、ペンネンネンネンネン・ネネム ブラボオ、ペンペンペンペ・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・「生憎海老が切れましたから蝦姑にいたしました」と答えた。――忠一や篤介と岡本は仲が悪く、彼等は彼女がその部屋におるのに庭を見ながら、「おい、うらなりだね」「西瓜糖はとれないってさ」などといった。無遠慮な口を、岡本はまるで・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・ あちらに勤める様になってからまだ一度もつづけて暇をもらった事がないので快く許してもらえた事を話し肩に掛けて来たカバンの中から肉のかんづめやら西瓜糖やらを出し、果物のかなり大きい籠まで持って来た。 お節は一言云っては涙をこぼして居た・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・××さんが提議して大きな西瓜が切られた。かれこれもう一時過ぎているのに西瓜の盆をかこんで活溌に討論し、陽気に笑い「さ、そろそろ帰るべ」とは云いながら誰ひとりランプの下から動かない。婦人部維持費五銭積立の件、××さん出産祝の件、組合内に購買組・・・ 宮本百合子 「飛行機の下の村」
・・・ やがてそろそろ朝日に暑気が加って肌に感じられる時刻になると、白いルバーシカ、白い丸帽子やハンティングが現れ、若い娘たちの派手な色のスカートも翻って、胡瓜の青さ、トマトの赤さ、西瓜のゆたかな山が到るところで目について来る。 ロシヤの・・・ 宮本百合子 「モスクワ」
・・・あ奴は西瓜が好きじゃ。西瓜を買うと、俺もあ奴も好きじゃで両得じゃ。」 田舎紳士は宿場へ着いた。彼は四十三になる。四十三年貧困と戦い続けた効あって、昨夜漸く春蚕の仲買で八百円を手に入れた。今彼の胸は未来の画策のために詰っている。けれども、・・・ 横光利一 「蠅」
出典:青空文庫