・・・――塩で釣出せぬ馬蛤のかわりに、太い洋杖でかッぽじった、杖は夏帽の奴の持ものでしゅが、下手人は旅籠屋の番頭め、這奴、女ばらへ、お歯向きに、金歯を見せて不埒を働く。」「ほ、ほ、そか、そか。――かわいや忰、忰が怨は番頭じゃ。」「違うでし・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・りそれを下手人と睨むというのがある。「身に覚なきはおのづから楽寝仕り衣裳付自堕落になりぬ。又おのれが身に心遣ひあるがゆへ夜もすがら心やすからず。すこしも寝ざれば勝れて一人帷子に皺のよらざるを吟味の種に仕り候」とある。少し無理なところもあるが・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・しかし下手人は決して分らない。こんな話を聞かされたりして威されていたために、いっそうの暑さを感じたのかもしれない。やっと地上へ出たときに白日の光の有難味を始めて覚えたのである。 高等学校を卒業していよいよ熊本を引上げる前日に保証人や教授・・・ 寺田寅彦 「夏」
出典:青空文庫