・・・ その夕もまたそこに詣でし、お通は一目見て蒼くなりぬ。明治三十五年一月 泉鏡花 「妖僧記」
・・・ ――その墓へはまず詣でた―― 引返して来たのであった。 辻町の何よりも早くここでしよう心は、立処に縄を切って棄てる事であった。瞬時といえども、人目に曝すに忍びない。行るとなれば手伝おう、お米の手を借りて解きほどきなどするのにも・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・ 今日交通の便開けた時代でも、身延山詣でした人はその途中の難と幽邃さとに驚かぬ者はあるまい。それが鎌倉時代の道も開けぬ時代に、鎌倉から身延を志して隠れるということがすでに尋常一様な人には出来るものでないことは一度身延詣でしてみれば直ちに・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ 面白やどの橋からも秋の不二 三島神社に詣でて昔し千句の連歌ありしことなど思い出だせば有り難さ身に入みて神殿の前に跪きしばし祈念をぞこらしける。 ぬかづけばひよ鳥なくやどこでやら 三島の旅舎に入りて一夜の宿りを請えば・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
・・・某年に芝泉岳寺で赤穂四十七士の年忌が営まれた時、棉服の老人が墓に詣でて、納所に金百両を寄附し、氏名を告げずして去った。寺僧が怪んで人に尾行させると、老人は山城河岸摂津国屋の暖簾の中に入った。 二 竜池は家を継いで・・・ 森鴎外 「細木香以」
出典:青空文庫