・・・古くからあったという事実の裏には時の試練に堪えて長く存続すべき理由条件が具備しているという実証が印銘されているからである。 以上は新型式の勃興に惰眠をさまされた懶翁のいまださめ切らぬ目をこすりながらの感想を直写したままである。あえて読者・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・のである。その昔、独断と畏怖とが対峙していた間は今日の「科学」は存在しなかった。「自然」を実験室内に捕えきたってあらゆる稚拙な「試み」を「実験」の試練にかけて篩い分けるという事、その判断の標準に「数値」を用いるという事によって、はじめて今日・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・ ×手ばなしでなぐられる金しばりの中で頑固に自らを試煉する。 これらの作品は、非常に複雑で熱い意欲をたくみに圧縮しつつ心を打つ力をもっていると思われますし、別な例では、ようやく終った所長の訓示・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
・・・ ヨーロッパの社会では第一次大戦のころから純潔に対する観念はすべての市民の日常生活の中で、はげしい試練をうけはじめた。イギリスはそれまで豊かだった中流層の経済力とともに安定していた清教徒風な、モラルのよりどころであった「純潔」の再検討に・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・一九五〇年は、日本の理性が試練される年である。このきびしくて人間らしい美しい事実はすでにわれわれの前にあらわれている。 河盛好蔵がこんにちのジャーナリズムの有様を「小説病時代」と云った。そしてひろい同感をひきおこしている。巨大資本に・・・ 宮本百合子 「五月のことば」
・・・ 民主主義文学運動が、その本来の性質にふくんでいる人民としての政治的要素、階級文学としての政治性は、ここにおいて一九四八年末から一九四九年にかけ、一つの複雑で貴重な試煉を経なければならないことになった。 一九四六年から四七年にかけて・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・のような脱出の角度と形態は、その会にあつまった人々に種々の試練を与えて成長させるか、或いは空中分解をさせてしまうかするであろうほかに、直接その会に関係をもっていない一般の人たちに、多くの問題を示唆する。そして、たとえ「雲の会」そのものが地上・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・二つの世界大戦を経て、地球上には、より新しい民主勢力が拡大し、人類の理性は、ますます苛烈な実践をもとめられ試煉を経つつあります。 人類の理性の集積は、精煉に精煉を重ねて、つみあげられてゆくものです。理性が理性であることを証明するため・・・ 宮本百合子 「若き僚友に」
・・・まことに英雄的生活が試練と苦悩と精力と勤労とにおいておもに偉大であったことは、私たちの勇気を鼓舞し私たちをふるい立たせます。憐れなる悩める者も誠実な勇気と努力とをもってすればついには何者かになり得るのです。偉大な人々の悲劇的生活は私たちの慰・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫