・・・幾世紀の洗練を経たる Alexandrine 十二音の詩句を以て、自在にミュッセをして巴里娘の踊の裾を歌わしめよ。われにはまた来歴ある一中節の『黒髪』がある。黄楊の小櫛という単語さえもがわれわれの情緒を動かすにどれだけ強い力があるか。其処へ・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・めたりしかども、羽はこれを聴かず、初め江東の子弟八千を率いて西し、幾回の苦戦に戦没して今は一人の残る者なし、斯る失敗の後に至り、何の面目か復た江東に還りて死者の父兄を見んとて、自尽したるその時の心情を詩句に写したるものなり。 漢楚軍談の・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・それはラテン語の詩句や、歴史の年代、或いは数学の与件を、大声で云って見ずにはいられない子供たちの声なのである」その騒々しいなかでも、一旦或ることに注意をあつめたら最後、マーニャの気を外へ散らすということは、どんないたずら巧者の姉たちの腕にも・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・――勿論マーシャの心持全部をそれだけで象徴しているあの、緑なす樫の詩句が、何処か我々に耳遠い「……ありき」と云う調子で第一に暗誦された為、マーシャが変にいやみに、思わせぶりになったと云うことも無くはないが――其那ことでも、慾を云えば、女優の・・・ 宮本百合子 「「三人姉妹」のマーシャ」
出典:青空文庫