・・・畝も畑もあったものじゃありません、廂下から土間の竈まわりまで、鰯を詰込んで、どうかすると、この石柵の上まで敷詰める。――ところが、大漁といううちにも、その時は、また夥多く鰯があがりました。獅子浜在の、良介に次吉という親子が、気を替えて、烏賊・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・とこちらを見詰める。「あら、目を閉ってるものがあるものか。……さ、写りますよ。……ただ今。はいありがとう」と手に持った厚紙の蓋を鑵詰へ被せると、箱の中から板切れを出して、それを提げて、得意になって押入の前へ行く。「章ちゃん、もう夜は・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・細心の工夫によってやっとうまく詰め合わせたものを引っくら返されたのであるから、再び詰めるのがなかなか大変であった。これが自分の室内ならとにかく、税関の広い土間の真中で衆人環視のうちにやるのであるからシャツ一つになる訳にも行かない。実際に大汗・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・棺を詰めるのは花にしてくれといって置くのを忘れたから今更仕方がない。オヤ動き出したぞ。墓地へ行くのだナ。人の足音や車の軋る音で察するに会葬者は約百人、新聞流でいえば無慮三百人はあるだろう。先ずおれの葬式として不足も言えまい。…………………ア・・・ 正岡子規 「墓」
・・・ この大番と云う役には、京都二条の城と大坂の城とに交代して詰めることがある。伊織が妻を娶ってから四年立って、明和八年に松平石見守が二条在番の事になった。そこで宮重七五郎が上京しなくてはならぬのに病気であった。当時は代人差立と云うことが出・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
出典:青空文庫