・・・ちょうど婆さんの御誂え通りに事件が輻輳したからたまらない」「それでも宇野の御嬢さんはまだ四谷にいるんだから心配せんでもよさそうなものだ」「それを心配するから迷信婆々さ、あなたが御移りにならんと御嬢様の御病気がはやく御全快になりません・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・「へい、お誂え」と、仲どんが次の間へ何か置いて行ッたようである。 また障子を開けた者がある。次の間から上の間を覗いて、「おや、座敷の花魁はまだあちらでございますか」と、声をかけたのは、十六七の眼の大きい可愛らしい女で、これは小万の新・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・イに滞在していた時には、親切に世話を焼いて、シャン・ゼリゼェの散歩やら、テアアトル・フランセェとジムナアズ・ドラマチックとの芝居見物やら、時間を吝まずに案内をして歩いて、ベルリンへ行ってから著る服まで誂えさせてくれた。 綾小路は目と耳と・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫