・・・ 二宮尊徳 わたしは小学校の読本の中に二宮尊徳の少年時代の大書してあったのを覚えている。貧家に人となった尊徳は昼は農作の手伝いをしたり、夜は草鞋を造ったり、大人のように働きながら、健気にも独学をつづけて行ったらしい。これ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・――彼女はふと女学校の教科書にそんなことも書いてあったように感じ、早速用箪笥の抽斗から古い家政読本を二冊出した。それ等の本はいつの間にか手ずれの痕さえ煤けていた。のみならずまた争われない過去の匂を放っていた。たね子は細い膝の上にそれ等の本を・・・ 芥川竜之介 「たね子の憂鬱」
・・・ が、読本と出席簿とを抱えた毛利先生は、あたかも眼中に生徒のないような、悠然とした態度を示しながら、一段高い教壇に登って、自分たちの敬礼に答えると、いかにも人の好さそうな、血色の悪い丸顔に愛嬌のある微笑を漂わせて、「諸君」と、金切声・・・ 芥川竜之介 「毛利先生」
・・・ 昨日買っていただいた読本の字引きが一番大切で、その次ぎに大切なのは帽子なんだから、僕は悲しくなり出しました。涙が眼に一杯たまって来ました。僕は「泣いたって駄目だよ」と涙を叱りつけながら、そっと寝床を抜け出して本棚の所に行って上から下ま・・・ 有島武郎 「僕の帽子のお話」
・・・やがて忘れてな、八時、九時、十時と何事もなく課業を済まして、この十一時が読本の課目なんだ。 な、源助。 授業に掛って、読出した処が、怪訝い。消火器の説明がしてある、火事に対する種々の設備のな。しかしもうそれさえ気にならずに業をはじめ・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・ 普通、草双紙なり、読本なり、現代一種の伝奇においても、かかる場合には、たまたま来って、騎士がかの女を救うべきである。が、こしらえものより毬唄の方が、現実を曝露して、――女は速に虐げられているらしい。 同時に、愛惜の念に堪えない。も・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・僕は好ましくなかったが、仕事のあいまに教えてやるのも面白いと思って、会話の目録を作らして、そのうちを少しずつと、二人がほかで習って来るナショナル読本の一と二とを読まして見ることにした。お君さんとその弟の正ちゃんとが毎日午後時間を定めて習いに・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・本来読本は各輯五冊で追って行くを通則とする。『八犬伝』も五輯までは通則通りであったが、六輯は一冊増して六冊、七輯は更に一冊加えて七冊、八輯は一度に三冊を加えて十冊とした。九輯となると上中下の三帙を予定し、上帙六冊、中帙七冊、下帙は更に二分し・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・やはり海の学校の読本にも、壇の浦の合戦のことが書いてあるかえ。」とききました。「それはあるさ、義経の八そう飛びや、ネルソンの話など、先生からいつきいてもおもしろいや。」「僕も、海の学校へいってみたいな。」「君、来年きたら連れてい・・・ 小川未明 「海の少年」
・・・たゞ、正純にして、多感的なる、人生の少年時代を温床となせる児童文学は、どの点より見ても、小型大衆小説にあらず、初歩の恋愛読本にあらず、従って、営利的商品にあらざることは論を俟ちません。また、そうあっていゝ理由がないのであります。 私・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
出典:青空文庫