・・・ 女房は是非このまま抑留して置いて貰いたいと請求した。役場では、その決闘というものが正当な決闘であったなら、女房の受ける処分は禁獄に過ぎぬから、別に名誉を損ずるものではないと、説明して聞かせたけれど、女房は飽くまで留めて置いて貰おうとし・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・果して、彼等の幾何、再検討を請求して、敢て恥ざるものがあるか、ということである。孤行高しとすることこそ、芸術家の面目でなければならぬ、衆俗に妥協し、資本力の前に膝を屈した徒の如きは、表面いかに、真摯を装うことありとも、冷徹たる批評眼の前に、・・・ 小川未明 「ラスキンの言葉」
・・・ と、言って出て行き、それきりおれのところへ顔出しもしなかったが、それから大分経って、損害賠償だといって、五十円請求して来た。 その手紙を見るなり、おれは、こともあろうに損害賠償とはなんだ、折角これまで尽して来てやったのに……と、直・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・すると御免とも云わずに表の格子戸をそうっと開けて、例の立退き請求の三百が、玄関の開いてた障子の間から、ぬうっと顔を突出した。「まあお入りなさい」彼は少し酒の気の廻っていた処なので、坐ったなり元気好く声をかけた。「否もうこゝで結構です・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・ 小石川の方へも左迄は請求れないもんですから、お梅だけは奉公に出すことにして、丁度一昨々日か先方へ行きましたの。」「まあ何処へなの?」「じき其処なの、日蔭町の古着屋なの。」「おさんどんですか。」「ハア。」「まあ可哀そうに・・・ 国木田独歩 「二少女」
・・・そこで、スパイに借られ、食われたものは、代金請求もよくせずに、黙って食われ損をしているのだ。「山の根へ薪を積むとて行ってるんだよ。」宗保が気をきかした。「ヘエエ。」 スパイは、疑い深かげな眼で三人を眺めた。そして、ついて来た。・・・ 黒島伝治 「鍬と鎌の五月」
・・・ と婆やはきまりのようにそれを言って、渋々おげんの請求に応じた。 こうした場合ほどおげんに取って、自分の弱点に触られるような気のすることはなかった。その度におげんは婆やが毎日まめまめとよく働いてくれることも忘れて、腹立たしい調子にな・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・ 女房は是非この儘抑留して置いて貰いたいと請求した。役場では、その決闘と云うものが正当な決闘であったなら、女房の受ける処分は禁獄に過ぎぬから、別に名誉を損ずるものではないと、説明して聞かせたけれど、女房は飽くまで留めて置いて貰おうとした・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・家内にも言いきかせ、とにかく之は怪しいから、そっくり帯封も破らずそのままにして保存して置くよう、あとで代金を請求して来たら、ひとまとめにして返却するよう、手筈をきめて置いたのである。そのうちに、新聞の帯封に差出人の名前を記して送ってくるよう・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・帰る時には、党の費用だといって、十円、二十円を請求する。泣きの涙で手渡してやると、「ダンケ」と言って帰って行く。 さらに一人、実に奇妙な友人がいた。有原修作。三十歳を少し越えていた。新進作家だという事である。あまり聞かない名前であるが、・・・ 太宰治 「花火」
出典:青空文庫