・・・ バルザック自身が、自分の文体をもてあまし、汗水たらしてそれと格闘した有様は、すべての伝記者によって描かれ、まざまざと目にも浮ぶばかりであるが、バルザックは文学作品における表現というものに対しては或る識見を抱いていた。「文章論に通暁して、言・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・で過去の儒教的な教育ののこりが自身の心持の底に作用しているか、所謂文人的教養の趣味が評価に際してつよく影響しているかということなどについては、一向省察がめぐらされていないところも、当時の文芸批評として識見の高さを示しているとともにその主観的・・・ 宮本百合子 「風俗の感受性」
・・・経験に富んでいるということがすなわち人間的識見の高いということになっているような幸福な両親を持っている人ならともかく、その娘さんのいう場合では、ただ世の中のいろいろのことを知っているからという意味でいわれていた感じであった。もし真に人生のわ・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
・・・しかしこれは夫人や子供たちに漱石と同程度の理解力や識見を要求することにほかならない。そういう要求はもともと無理である。漱石の方からおりて行って手を取ってやるほかに道はなかった。そのためには漱石は、家庭の外に向かって注いでいる精力を、家庭の内・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫