・・・ 最近大阪の闇市場では「警戒警報」「空襲警報」という言葉が囁かれている。しかし戦争中の話をしているのではない、警察の手入れのことを「警報」という隠語で伝達しているのである。どんなに極秘にされた抜打ちの手入れでも、事前に洩れる。これが「警・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・と彼の暗記しおる公報の一つ、常に朗読というより朗吟する一つを始めた、「敵艦見ゆとの警報に接し、連合艦隊は直ちに出動これを撃滅せんとす、本日天候晴朗なれども波高し――ここを願います、僕はこの号外を読むとたまらなくうれしくなるのだから――ぜひこ・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・といいかけた時、空襲警報が出て、それとほとんど同時に爆音が聞え、れいのドカンドカンシュウシュウがはじまり、部屋の障子がまっかに染まりました。 「やあ、来た。とうとう来やがった」と叫んで大尉は立ち上がりましたが、ブランデーがひどくきいたら・・・ 太宰治 「貨幣」
・・・七月の二十八日朝に甲府を出発して、大月附近で警戒警報、午後二時半頃上野駅に着き、すぐ長い列の中にはいって、八時間待ち、午後十時十分発の奥羽線まわり青森行きに乗ろうとしたが、折あしく改札直前に警報が出て構内は一瞬のうちに真暗になり、もう列も順・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・どうせ死ぬのならば、故郷で死んだほうがめんどうが無くてよいと思い、私は妻と五歳の女の子と二歳の男の子を連れて甲府を出発し、その日のうちに上野から青森に向う急行列車に乗り込むつもりであったのですが、空襲警報なんかが出て、上野駅に充満していた数・・・ 太宰治 「たずねびと」
・・・ と私は夕食の時、笑いながら家の者に言ったその夜、空襲警報と同時に、れいの爆音が大きく聞えて、たちまち四辺が明るくなった。焼夷弾攻撃がはじまったのだ。ガチャンガチャンと妹が縁先の小さい池に食器類を投入する音が聞えた。 まさに、最悪の・・・ 太宰治 「薄明」
・・・一刻も早く修理したくて、まだ空襲警報が解除されていないのに、油紙を切って、こわれた跡に張りつけましたが、汚い裏側のほうを外に向け、きれいなほうを内に向けて張ったので、妻は顔をしかめて、あたしがあとで致しますのに、あべこべですよ、それは、と言・・・ 太宰治 「春」
・・・私は、諸君に警報したい。泥靴の夢を見たならば、一週間以内に必ずどろぼうが見舞うものと覚悟をするがいい。私を信じなければ、いけない。げんに私が、その大泥靴の夢を見ながら、誰も私に警報して呉れぬものだから、どうにも、なんだか気にかかりながら、そ・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・岬の上には警報台の赤燈が鈍く灯って波に映る。何処かでホーイと人を呼ぶ声が風のしきりに闇に響く。 嵐だと考えながら二階を下りて室に帰った。机の前に寝転んで、戸袋をはたく芭蕉の葉ずれを聞きながら、将に来らんとする浦の嵐の壮大を想うた。海は地・・・ 寺田寅彦 「嵐」
・・・それでもう一ぺん同じように警報を発しておいて、すきを見て燭火を引っくりかえして火事を起こしたはいいが自分がそのために焼死しそうになるといったような場面もある。また大地震で家がつぶれ、道路が裂けて水道が噴出したり、切断した電線が盛んにショート・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
出典:青空文庫