・・・木戸木戸の権威を保ち、町の騒動や危険事故を防いで安寧を得せしむる必要上から、警察官的権能をもそれに持たせた。民事訴訟の紛紜、及び余り重大では無い、武士と武士との間に起ったので無い刑事の裁断の権能をもそれに持たせた。公辺からの租税夫役等の賦課・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・その殺人現場における事件の推移はもちろん、その動機から犯行までの道行きをたとえ簡単にでも正確につきとめるためには、実は多数の警察官や司法官の長日月の精査を要し、しかもそれでもなかなか容易にはすみからすみまで明白にしにくいのが通例である。それ・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・おそらく板塀よりもその前のどぶよりもこの草がいちばん美しいものとしか思われなかったが警察官のいう事であるからそのとおりにむしり取ってしまった。 人並みに草花などの種を自分でまいてみると、はじめて雑草の不都合な事が少しわかって来るような気・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・夕化粧の襟足際立つ手拭の冠り方、襟付の小袖、肩から滑り落ちそうなお召の半纏、お召の前掛、しどけなく引掛に結んだ昼夜帯、凡て現代の道徳家をしては覚えず眉を顰めしめ、警察官をしては坐に嫌疑の眼を鋭くさせるような国貞振りの年増盛りが、まめまめしく・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・明治三十三年四月十五日の日曜日に向嶋にて警察官の厄介となりし者酩酊者二百五人喧嘩九十六件、内負傷者六人、違警罪一人、迷児十四人と聞く。雑沓狼藉の状察すべし。」云 わたくしはこれらの記事を見て当時の向嶋を回想するや、ここにおのずから露伴幸・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・ 男や軍人が書いたのでは陳腐だというので、警察官の女房などにわざわざ「満州里遭難血涙記」を書かせ、公爵近衛文麿の戦争をけしかける論文。今ジェネヴで「泥棒にも三分の理」にさえならぬ図々しい屁理屈をこねている日本帝国主義の三百代言松岡洋右の・・・ 宮本百合子 「『キング』で得をするのは誰か」
・・・で第一、警察官の民主化の実行、第二、地方刑罰条例の濫発への警告――売春等取締条例・公安条例など「国会で決定せず、地方自治体できめしかもムヤミにつくりたがる傾向」を批判していた。一九四八年に人権擁護委員会が置かれてから取扱った件数八八一七件。・・・ 宮本百合子 「修身」
・・・ ロンブロゾーは、警察官の先入観念に一つの犯罪型という骨相上の分類を加えてやったが、失業と夫婦生活の破壊との生々しい関係、失業と売笑との直接な関係、大多数者の慰安ない生活と低劣なままに繋ぎとめられている文化水準とアルコール中毒との具体的・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・それは学校教員・警察官その他待遇職員の未亡人たちが遺族扶助料をもらいながら再婚し、しかも扶助料をとりあげられぬため、内縁関係にしているのがおびただしい数にのぼるので、東京府の恩給掛はこの際徹底的に調べて、内縁でも再婚している未亡人の扶助料は・・・ 宮本百合子 「私の感想」
・・・だからツアアルは平服を著た警察官が垣を結ったように立っている間でなくては歩かれないのである。一体宗教を信ずるには神学はいらない。ドイツでも、神学を修めるのは、牧師になる為めで、ちょっと思うと、宗教界に籍を置かないものには神学は不用なように見・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫