・・・八方から、丁度熱に浮かされた譫語のような、短い問や叫声がする。誰やらが衝立のような物の所へ駆け附けた。「電流を。電流を。」押えたような検事の声である。 ぴちぴちいうような微かな音がする。体が突然がたりと動く。革紐が一本切れる。何だか・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・○ 手術した晩に、安らかな気持なのだが頭の中がオレンジ色がかった明るさで、いかにも譫語が云いたくてたまらなかったのは面白い。薬のためにああいう状態になっているときの譫語は、全く我を知らずに口走るのではなくて、先ず、何かとりとめなく喋りた・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
・・・そして最後の苦悩の譫語にも自分の無罪を弁解して、繰り返した。『糸の切れっ端――糸の切れっ端――ごらんくだされここにあります、あなた。』 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・それは熱が高いので、譫語に「こら待て」だの「逃がすものか」だのと叫んだからである。 木賃宿の主人が迷惑がるのを、文吉が宥め賺して、病人を介抱しているうちに、病附の急劇であったわりに、九郎右衛門の強い体は少い日数で病気に打ち勝った。・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・それにあの男の作は癲癇病みの譫語に過ぎない。Gorki は放浪生活にあこがれた作ばかりをしていて、社会の秩序を踏み附けている。これも危険である。それに実生活の上でも、籍を社会党に置いている。Artzibaschew は個人主義の元祖 Sti・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
出典:青空文庫