・・・星晴れのした寒い空に、二つは高く頭をもたげていましたが、この朝、昨日どちらの工場の汽笛が早く鳴ったかということについて、議論をしました。「こちらの工場の汽笛が早く鳴った。」と、製紙工場の煙突は、いいました。「いや、私のほうの工場の汽・・・ 小川未明 「ある夜の星たちの話」
・・・を出ることで、議論の結末をつけることにした。「じゃ、ごゆっくり」 マダムも海老原がいるので強いて引き止めはしなかったが、ただ一言、「阿呆? 意地悪!」 背中に聴いて「ダイス」を出ると暗かった。夜風がすっと胸に来て、にわかに夜・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ところが先生僕と比較すると初から利口であったねエ、二月ばかりも辛棒していたろうか、或日こんな馬鹿気たことは断然止うという動議を提出した、その議論は何も自からこんな思をして隠者になる必要はない自然と戦うよりか寧ろ世間と格闘しようじゃアないか、・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・に、戦争開始前烈しく行われた戦争に関する幸徳、堺等の議論が反映していない以上に、桜井忠温の「肉弾」には、なおそれ以上、微塵もその反映は見られない。「肉弾」は熱烈な愛国主義に貫かれている。 愛国主義は、それ自身決して不自然な感情でもないし・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・いう身体つきの徳を持っている、これもなかなかの功を経ているものなので、若崎の言葉の中心にはかまわずに、やはり先輩ぶりの態度を崩さず、「それで家へ帰って不機嫌だったというのなら、君はまだ若過ぎるよ。議論みたようなことは、あれは新聞屋や雑誌・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・私はそれこそ一村童に過ぎなかったのだけれども、兄たちの文学書はこっそり全部読破していたし、また兄たちの議論を聞いて、それはちがう、など口に出しては言わなかったが腹の中でひそかに思っていた事もあった。そうして、中学校にはいる頃には、つまり私は・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・その翌日から予算が日程に上ぼっていて、大分盛んな議論があるらしい。その晩は無事に済んだ。その次の日の午前も無事に済んだ。ところが午後になると、議会から使が来て、大きなブックを出して、それに受取を書き込ませた。 門番があっけに取られたよう・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・ それから古典教育に関する著者の長い議論があるが、日本人たる吾々には興味が薄いから略する事にして、次に女子教育問題に移る。 婦人の修学はかなりまで自由にやらせる事に異議はないようだが、しかしあまり主唱し奨励する方でもないらしい。・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・たとえば議論の焦点がきまると、それを小野の方から飛躍させられて“そりゃァ、労働者の自由を束縛するというもんだ”という風に、手のつけようのないところへもってゆく。学生たちがそれをまた神棚から引きおろそうとして躍起になると、そのうち小野がだしぬ・・・ 徳永直 「白い道」
・・・犬殺しにやられたのだとも云うし、又、いい犬だったから、人が盗んで連れて行ったのだとも、議論はまちまちであった。私は是非とも、新に二度目の飼犬を置くように主張したが、父は犬を置くと、さかりの時分、他処の犬までが来て生垣を破り、庭を荒すからとて・・・ 永井荷風 「狐」
出典:青空文庫