・・・家の内には情を重んじて家族相互いに優しきを貴ぶのみにして、時として過誤失策もあり、または礼を欠くことあるもこれを咎めずといえども、戸外にあっては過誤も容易に許されず、まして無礼の如きは、他の栄誉を害するの不徳として、世間の譏りを免るべからず・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・曰く其角を尋ね嵐雪を訪い素堂を倡い鬼貫に伴う、日々この四老に会してわずかに市城名利の域を離れ林園に遊び山水にうたげし酒を酌みて談笑し句を得ることはもっぱら不用意を貴ぶ、かくのごとくすること日々ある日また四老に会す、幽賞雅懐はじめのご・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・男の心の、その乱れた内にもまだ何分か、その本心、美術を貴ぶ心はのこって居た。「女がさぞ………」 フト男はまにさされたように身をふるわせた。「女がさぞ……」 このことばは男は死なせられるより情ない辛いことで有った。 彼の何・・・ 宮本百合子 「死に対して」
出典:青空文庫